なぜニュースレターはメディアフォーマットとして注目されているか?

なぜ今ニュースレターなのか?は様々な角度から説明できますが、今回は「購読体験」の歴史を追いつつなぜ今さら国内外でニュースレターに注目が集まっているか?について思考をアウトプットしてみます。
itaru hamamoto (至) 2021.04.01
誰でも

最近、私のニュースレター記事が「企業内の Slack で共有されていた!」「いつも読んでます、わかりやすい!」みたいに、SNS 上以外でも反応いただけるようになってきてて、嬉しく思ってます😌

しかし、自分で読み返すと「酷いな〜」とか「こういう風にも受け取られる危険あるくない?」みたいに恥ずかしく思う時もあります。改めてテキストで伝える事の難しさと楽しさを感じる今日この頃です!

さて今日は、改めてニュースレターについて考えを整理してみます。少し歴史を追いながら思考を整理してみるので、インターネット歴が高い方は懐かしみながら読んでもらえるとありがたいです👌

***

メディアはバンドルとアンバンドルを繰り返す 🐈

まず、なぜ今ニュースレターは注目されているのか?について整理する前に、前提の話を。

聞いたことがある方も多いと思いますが、インターネット上のメディアはこれまで、バンドルとアンバンドルを繰り返しています

例えば、これまでは雑誌や新聞など、「パッケージ」として存在していた情報が、個人ブログやネットニュース記事などのコンテンツとしてバラバラになりました。紙 → デジタルに移る中でアンバンドル化が起こったということです。

さらに、個人ブログ記事やネットニュース記事が増えてくると、今度はまとめサイトやキュレーションサイトが増えてきます。1 つ 1 つのサイトをブックマークしていたところから、複数のサイトの RSS を登録した RSS リーダーを直接見に行く人も増えました。ネット上のコンテンツが増えるにつれて、バンドル化が起こってきます。

そして、スマートフォンが登場すると、メディア各社の専用アプリができたりとアンバンドル化が起こりました。今は SNS アプリにバンドル化されています。

このように、技術やプラットフォームの登場で新たなコンテンツフォーマットができる度に、メディアのバンドル化とアンバンドル化が繰り返されてきました。情報が溢れるとキュレーションの価値が上がり、キュレーションに人が集まると、キュレーションの外で人を集めようとアンバンドル化の流れが起きます。

(このあたりのお話に関連して、ジャーナリストの古田大輔さんの記事や、平和博さんの記事が面白いです。)

当然、昨今のニュースレターへの注目も、このバンドル化とアンバンドル化の流れの上にあるわけです。そして、バンドルからアンバンドルの流れに変わる際、必ず「アルゴリズムからの逃避」が見られます。その観点から思考を整理してみます。

***

「キーワード」でのバンドル化 💡 → アルゴリズムからの逃避

2000 年代に入る前、検索エンジンがない時代。

URL を打ち込むことで直接 Web サイトにアクセスしていました。中には、企業サイトの URL を雑誌や書籍で発見し、それを書き写してアクセスする、といった使い方もあったそうです。

そして、Larry Page が PageRank というアルゴリズムを生み出し、Google が世の中に広く浸透することになります。

Google co-founders Larry Page and Sergey Brin - Wired より

Google co-founders Larry Page and Sergey Brin - Wired より

Google 創業者二人は大量のコンピューターを数珠つなぎにして、世の中にある全ての Web サイトをダウンロードして、リンクの数を数えることにしました。このアイデアは非常に大胆です。紙コンテンツからデジタルへ「アンバンドル」する形で世の中に散らばった無数のネットコンテンツを、全てバンドルするという事ですから。。

そこで大量のデータは、Google のアルゴリズムによって順位付けされました。各コンテンツは「キーワード」を引き出しとして Google 検索結果画面にバンドルされることになります。しかしながら、なんでもかんでも検索エンジンと相性の良いコンテンツばかりではありませんでした。

  • リアルタイム性

  • ソーシャルによるネットワーク性

などは、被リンク関係や「キーワード」を調べるだけでは分析できません。2000 年代、そうした即時性や交流を求めて、電子掲示板・ソーシャルブログ・Twitter・mixi・Facebook など多くの Web サービスが成長します。

そうした情報ページが、検索エンジンからほぼ独立し、各大型コミュニティが立ち上がる形で「アンバンドル」化が起こりました。そのようなサービスは、サービス内に検索やソーシャルグラフなど、PageRank とは異なる独自のページ回遊の仕組みを持ちました。

私個人としては、検索アルゴリズムと相性の悪いコンテンツが、そのアルゴリズムから逃避するように、アンバンドルしてきたように見えています。

***

「人」でのバンドル化 🧬 → アルゴリズムからの逃避

そしてもう一つの大きな流れ。「人」でのバンドル化です。

こちらはスマートフォンの登場でさらに加速した背景もあるのでややこしいですが、ここではなるべく単純化して書いていきたいと思います。

あるコンテンツを良いかどうか評価する際、「誰が言ったか?」を人は気にしますよね。親しい友だちや、自分が尊敬する業界のリーダーが発信したりオススメするコンテンツは非常に信頼性が高いです。そうしてソーシャルグラフを形成しながらコンテンツの発信者はどんどん増えることとなりました。

それは、世の中に溢れた情報を「人」がキュレーションするというアイデアです。「人」に対して評価を行うアルゴリズムが働くことで、個人からの情報発信がモチベートされます。SNS はそうして増えた情報発信 / コンテンツがさらに「人」を集めるというループで成長し、今や SNS アカウントを持っていないという人を探す方が難しくなりました。

そこで今、Attention Economy の増大による負の影響が問題になりつつあります。(その点は過去のニュースレターで書いたりしたのでぜひ合わせて読んでもらえれば!)

負の影響というのは、人々の注意や関心を引きつけるコンテンツはいつも情報の正しさや質の高い文章とは限らず、良質な情報を提供する人に十分なインセンティブがはたらくわけではない状況のことです。フェイクニュースや釣りタイトルをよく見るのもそういった負の影響によるものです。

コンテンツパブリッシャーたちも、そうした Attention を集めるようにしていかないと、読者を確保することができなくなりました。自社アプリを成功させるのは至難の技で(スマホに入っているアプリの顔ぶれってほとんど変わらないですもんね)、プラットフォーム上で上手に踊るしかありません。

そうして、アルゴリズムで駆動するプラットフォーマーからの逃避の流れがきます。英語圏ではプラットフォームに依存せず、読者と直接繋がろうとしてニュースレターや SMS などに再び注目が移ってきたのです。

SNS プラットフォーマーにバンドルされていたコンテンツは、今まさに再びアンバンドルされていく過程にあると言えます。

***

アルゴリズムではなく、自分で情報を選ぶ時代 📨

自分の興味・関心に合わせて、人気コンテンツをアルゴリズムに選んでもらう。これが当たり前になったことは、情報が溢れる時代にはありがたいことです。しかし、Attention Economy の負の面で、必ずしも信頼できる情報がオススメされるとは限りません。

ニュースレターへの登録はつまり、自分が気に入った書き手 / パブリッシャーを選び、プラットフォーム上以外で直接関係を結ぶということです。注目を集めることがメインではなく、読者のために書かれたコンテンツは良質であることが多く、しかもコンテンツが勝手に届くので、SNS や Web サイトに直接見に行く手間もありません。

この体験はまるで、新聞や雑誌を自分で作っていくかのようです。

そうした購読体験の良さが再評価され、2021 年にもなってニュースレターは再熱しています。またどこかのニュースレターで、ニュースレターの良いところや悪いところについてまとめたいと思いますが、今日は長くなったのでこのあたりで。

***

あまりに海外でニュースレターが流行っているせいか、国内でもニュースレターを試し始めているメディアさんが最近増えてきましたね!ぜひ知見を我々と交換していきましょう。

よかったら今日のこのテーマで何かご意見や他に知っている知見など、こちらでお待ちしております!読者さんであれば書き込めるはずです。

また、レタールームに書くのは恥ずかしい!という方はこのニュースレターに返信していただくと、私に届きます👌

ぜひ感想やご意見、さらなる知見などお待ちしております!

ぜひ SNS でもシェアお願いします🙏🏻

無料で「Essays by Itaru」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
今日のクリエイターエコノミー
誰でも
サブスクメディアにおけるフリーミアムと提供価値の関係
誰でも
「コメント機能」の体験を真剣に考えてみる
誰でも
ネット時代の情報のコモディティ化と向き合う
誰でも
メディアビジネスのロングテール
誰でも
クリエイターの「自由」獲得の歴史
誰でも
クリエイターエコノミーがDXするもの
誰でも
インターネットマネタイズ手法研究 1:サブスクリプション