「コメント機能」の体験を真剣に考えてみる

新たにリリースした「スレッド機能」の開発の裏側を記録してみます。
itaru hamamoto (至) 2022.12.29
誰でも

読者の皆さん、こんにちは。theLetter の濱本です。

今日はここ数ヶ月奮闘していたコメント系の機能開発について書いてみようと思います。どのように仮説を立てて、どういう検証をしていったのか、theLetter の機能開発プロセスをオープンにしてみます。

目次です👀

  • 今日のコメント欄 ~ 何名がコメントする? ~

  • なぜ人はコメントするのか

  • 「コメント率 3% の壁」を突破する仮説検証

  • 辿り着いたコメントの課題

  • まとめとあとがき

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今日のコメント欄 ~ 何名がコメントする? ~

今のソーシャル系のサービス環境で、「自分の意見」ってコメントで言いにくくないですか?

SNS やブログのコメント欄はオープンすぎる。かといってクローズドな場(プライベートグループやオンラインコミュニティなど)では、人数が少なすぎて盛り上がりにくく、逆に意見を言うモチベが少ない。

なので、ちょうどいいコメント欄とはどういうものなのか?という問いからこの試みはスタートしました。

まず、なんとなく様々なサービスの PV や再生回数、会員数に対するコメント率を調べていくと、0.5% ~ 1% ほどのコメント率があれば高めで、クローズドな場(会員限定など)でも 3% を超えるコメント欄は稀でした。

クローズドに 100 人が参加するコメント欄があるとして、1 ~ 3 名からコメントされていれば上出来という感じだったのです。YouTube であれば、3,000 回再生が回っている動画に対して 10 件ほどコメントがついていれば多い方だという相場観が私の中であります。

そこで、theLetter でも一部の書き手さんにテストの趣旨をきちんとご説明した上で、何名かにご協力いただき、ニュースレター文末に「コメントする」ボタンを配置し、シンプルなコメント欄を設置し、どれくらいコメントがくるか確かめました。

やはり多いときで読者数のうち 3% 程度の方がコメントしました。

どうやら世の中のコメント欄には、コメント率 3% の壁がありそうです。私たちはその壁を破るための実験を始めることにしました。

定量的な目標感としては、3% が下限の感じで 5% ~ 7% がよくある率、10% を超えるときもある、といったコメント欄を目指すことにしました。

なぜ人はコメントするのか

そのためにはまずはこの問いから始める必要があります。なぜ人はコメントし、コメントしないのか。

そこで、私たちの中で仮説を立て、実際にテストのコメント機能でコメントしてくれた人・コメントをしようか迷ってくれた人にヒアリングをすることにしました。

一方で書き手さんから、質問箱的なサービスや Twitter の DM 上で、どんな意見が読者から寄せられるのか?を教えてもらって、現状手段と読者がコメントする理由を整理してみました。

また、コメントする理由だけでなく、コメントを躊躇する理由についても仮説立てました。

このように、問題を解決するためや、他読者とのポジション、貢献欲といったモチベーションがあってコメントをし、書き手にどう思われるか?他の読者にどう思われるか?という心配によってコメントを躊躇するのではないか?と整理し、ヒアリングを実施しました。

ヒアリングしていると気づいたことがあって、「書き手へのエンゲージメント」の大きさによって、コメントするモチベーションや躊躇する理由が変わりそう、ということ(当たり前といえば当たり前ですが)。そこで、エンゲージメントの高さによってターゲットを整理することにしました。

theLetter の場合は、コメント機能がもともとなかったので、どれだけ記事を読んでいるか?という指標でエンゲージメントの高さを近似しました。

そうすると、以下のようなマッピングができます(実際は実数値が入ってます)。このマッピングごとに読者さんに再度ヒアリングを実施しました。

とくに「注力」と書かれたところに位置する読者さんは課題が大きそうです。この方々のコメントを躊躇する/しない理由を取り除くことができればコメントの総数は増えるはず。

エンゲージメントが大きくてコメントもしてくれた読者は、おそらくどんな機能を作ってもコメントしてくれるでしょう。エンゲージメントが小さくてコメントもしなかった人は、どんな機能を作ってもコメントしてくれなさそうです。なので「注力」と書かれたところに属する読者の課題を解決することにしました

そして「注力」グループの読者にヒアリングをすすめていくと、多くは「他の読者にどう思われるか?」という不安によってコメントを躊躇している、ということが分かりました。

具体的にはコミュニティとの質・熱量などの「温度差」によって自分が傷つくかも、という不安でした。つまり、リテラシーの高いグループで変なこと言ってないかな?リテラシーの低いグループで意識高い場違いなこと言ってないかな?という不安です。

コミュニティに属する限り、リテラシーや目線感の差は必ず出ます。なので不安の源泉は差が出ること自体ではなく、コミュニティに属する他の読者を知らないがゆえに起こっている課題でした。

定量的に測れないのですが、多くのコメント欄は 85 - 90% くらいが絶対にコメントしない人たち。そして、3 - 15% は他の読者にどう思われるか?を気にする人たち。3% 程度の方は他の読者にどう思われようとコメントできるだけのエンゲージメントと勇気を持つ方々、みたいなイメージをこの時点で持つことができました。

まとめると、読者の中の 3 - 15% ほどに位置する「他の読者にどう思われるか?を気にする人」の問題を解決することで、コメント率 3% の壁を突破することにしました。

「コメント率 3% の壁」を突破する仮説検証

解くべき問題はなんとなく定義できたので、いよいよソリューションをつくっていこうということになりました。

ただ前提として、コメント率を KPI には置くものの、今後コメント欄をどうしたいのか?ということも考えていて、その未来には「読者同士でも会話が生まれる」ということも考慮に入っていました。なのでコメント率だけを狙って完全匿名のコメ欄をつくっても仕方ないなと。

では、「他の読者にどう思われるか?を気にする人」の問題を解くためのアイデアを考えていくと何がありそうか。基本的には「コメントする報酬を高める」か「コメントする不安を取り除く」の 2 パターンのアプローチがあると思います。その観点でソリューションとなりうる要素を下記の 7 つに分類してみました。

  • 自信(これなら答えられる!)

  • 頼られる喜び(頼まれたならやってみよう!)

  • 責任転嫁(私が能動的にコメントしたんじゃないし!)

  • 情報メリット(知りたいので質問したい!)

  • 同調性(みんなもやってる!)

  • 低リスク(どうせ消える!あとで消せる!)

  • 貢献欲(役にたちたい!)

この中でも何がソリューションになり得るか?

そもそも他人にどう思われるかを考えてしまって、自分が「傷つくかも」と不安になる理由は自分の発言に責任があるからだと考えてみました。「この人が自発的にコメントしたんだ」というのが前提のコメント欄である限り、参加者はそのコミュニティに相応しくない発言をしてしまうリスクを考えてしまいます。

なので「頼られる喜び」を最大化しつつ「責任転嫁」によってコメントハードルを下げるアイデアを思いつきました(実際は他に失笑するようなアイデアがたくさんありましたw)。

その名も「バトンスレッド」です。

上図は実際にデモ段階のものを書き手さんにお見せしたときの資料です。バトンスレッドは、

  • 書き手がトピックを立てる(テーマが決まっていることで「自信」をつける)

  • 書き手に依頼される形で選ばれた 10% の読者のみがコメントできる(「責任転嫁」「頼られる喜び」)

  • コメント後に他の読者に広げるボタンを押すと、さらに他の読者 5 人に通知が広がり、通知がきた読者はコメントできる(「責任転嫁」「頼られる喜び」)

といった特徴のある機能です(チェーンメールのようですねw)。

つまり「誰かに頼まれた」という体裁が前提のコメント欄というわけです。

実際にリリースして試した結果、全読者のうちコメント率 6.6% にあたる人数がコメントしたのでした。急に外れ値がきてビックリしていました。これはイケるぞ!ということで、早速コメントした人、しなかった人に対して、エンゲージメントのセグメント分けをした上でヒアリングを実施しました。

辿り着いたコメント欄の形

バトンスレッドの仮説は『「他人から指名される、頼られる」という体験によって、普通のコメント欄ならコメントを躊躇してしてしまう読者がコメントできるようになり、結果として全読者のうち 5 % 以上がコメントをする』というものでした。

コメント率は 5% を超えることができたので、仮説の結果(後半部分)は検証できたことになりますが、仮説の前半部分がどうなっていたか?正しく知りたいと思いました。

「普通のコメント欄ならコメントを躊躇してしてしまう読者」に絞ってヒアリングした結果をお伝えすると、

  • すでにコメントが多く、紛れられる感があった(低リスク)

  • トピックが決まっていたので書き込みやすかった(自信)

  • 他の人のコメントのクオリティ的に、自分も書けそうだった(自信)

  • コメント欄自体が面白くて、参加したくなった(同調性)

といった意見が多く出ました。

なんと、「他人から指名される、頼られる」という体験が効いている感じは全くなかったのです!個人的に衝撃でした。バトンが回ってきたことをどう思ったか?とか、色々しつこく質問させていただいたのですが、指名されたかどうかは本当に関係なかった感じでした。笑

つまり「普通のコメント欄ならコメントを躊躇してしてしまう読者」は、コメント欄に訪れたときにコメント数がすでに多くあり、初めて他の読者の顔がみえたことによって「自信」や「低リスク」「同調性」を感じることによってコメントをする勇気が出たと。

これまでのヒアリングでも、読者は必ずコメント前に他のコメントを読もうとすることがわかっていました。しかも今回、読者の 10% に最初に通知がいくバトンスレッドですが、たまたまエンゲージメントの高い順に通知を送っていたのです。

まとめるとこんな感じで、バトンスレッドは 1 番の方から通知がいきやすく、2 番の人に通知がいったときには、すでに 1 番の人のコメントが並んでいる状態をたまたまつくれたということです。

で、2 番の方は「他の読者にどう思われるか?」を気にされる傾向が強くて、他の読者のコメントの感じとか雰囲気とかを知るまではコメントを躊躇される方々です。事前に 1 番の人のコメントを見れたことで「こんな雰囲気なら書き込める!」とか「すでにいくつもコメントがあるし、私が書き込んでも目立たないからいいか!」みたいな感じでハードルが下がったようです。

そうして書き手がトピックを決め、エンゲージメント順に通知がいく「スレッド機能」ができました。

読者によって時間差をつけるというのは、YouTube などオープンな場はともかく、theLetter のような半クローズドな空間では非常に大事な工夫かもしれません。これからこの機能をより磨いていければと思います。

まとめとあとがき

今回はいつもとテイストを変えて、プロダクト開発について書いてみました。長々とすみません。

今年はクリエイターエコノミー関連で大きな動きがあった年でした。Web3 周りのスタートアップが続々と出ては消え、ニュースレタープラットフォームが買収されたり撤退されたり、国内では note さんが上場したり。

スタートアップは「競合に勝つ」というより「生き残る」ことが大事かなと思っています。多分、競合に打ち勝った企業は、打ち負かしたという感覚より顧客に喜ばれることをし続けたら周りが勝手に潰れていったって感覚なんだろうなと。

今年最後のレターになりましたが、来年も時間を見つけてレターなり Podcast なり更新していければと思います。

ニュースレターや Podcast、採用情報のシェア・感想などお待ちしております🔥

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