クリエイターエコノミーがDXするもの

ギグエコノミーとクリエイターエコノミーの違いに触れながら、儲けることに対する心理的なハードルの高い日本についてアレコレ考えるエッセイです。
itaru hamamoto (至) 2021.11.28
誰でも

今回は、日本人の「稼ぐ」という考え方について少し考えてみたいと思います。そして今流行りのワードである「クリエイターエコノミー」について触れていきます。

っとその前に、theLetter が正式リリースを迎えました🎉

これまで使っていただいていた方、最近使い始めた方、利用検討中の方、よろしくお願いいたします!

theLetter がきちんと進化していくサービスであり続けるために、持続可能なビジネスにしていけるよう頑張ります。

このニュースレターは私が theLetter の代表としてではなく、起業家個人としての考えをまとめていくニュースレターです。かなり不定期ですがよろしければご登録ください😌

それでは本題。

***

なぜ日本人は「稼ぐ」「儲ける」話に嫌悪感を抱くのか?

このことについて、最近よく考えを巡らせています。日本人は、と言いましたが日本以外でも案外そうなのかもしれません。
「稼ぐ」「儲ける」ことが普通にならないと、せっかくの良い活動も持続可能ではない、ただの自己満足事業になりかねないと常々思っています。これまで、学業や起業で常にお金で困っていた私からすると、活動どころか勉強などの自己研鑽さえもお金がないと満足にできません。私は稼ぐのは嫌いだし辛いことだといつも思っているけど、稼がなかった時に自分の活動がどうなるのかもよくわかっているつもりです。

私の今の仕事では、企業だけでなく、フリーランスの書き手さん方や NPO 運営の方と多く話しますが、きちんと継続のためにお金を意識されている方が多いです。

しかし日本では、大っぴらに儲けていることを言う人は端ない、そしてそのビジネスが直感的に理解できないものであればあるほど怪しいと感じられるものです。真っ当なビジネスを仕掛ける側としても、そう思われるのが嫌で、どことなくビジネスがしにくい風潮があるように思います。

なぜ日本人はお金というものにマイナスイメージを持っているのかググってみると、質素倹約を美とする江戸時代の影響である、言語構造の影響である、金融リテラシーの教育の問題だ、長期雇用の文化、などいろんな説が出てきました。

とくに金融リテラシーの低さについては少し思い当たることが過去にありました。

私はフリーランス時代、カナダ人とオーストラリア人としばらくチームで働いていたことがあります。その時、中産階級などの「階級」の定義について話したことを覚えています。

本当かどうか知らないですが、彼女らが言うには、仕事を辞めてもお金が減らない人のことを「中産階級」というイメージがあるそうです。そして、仕事をしなければ生活できない人を「労働者階級」、仕事をしていなくても資産が増え続ける人たちを「資本家階級」って感じ。

ここで言いたいのはこの単語の正しい定義ではなく、「中間にあたる人々」が「お金が減らない」のか!!!!という衝撃です。じゃあ日本人ほとんど労働者階級なのでは!?みたいな。

2016年に日銀が発表した「資金循環の日米欧比較」を見ると、資産のうち現金・預金が占める比率は日本 52% に対してヨーロッパは 35%、アメリカは 13%(低っ)。株・投資信託が占める比率は、日本わずか 16% に対してヨーロッパは 25%、アメリカ 47%。日本人はとくに、資産が増えない場所にお金を貯め込んでいることが分かります。

あとは長期雇用もかなり効いてる気がします。長期雇用そのものというよりは、人材の流動性の低さ。

日本で「転職」というと、どちらかといえば逃避や降格といったネガティブな印象がいまだにあります。転職を繰り返してキャリアアップしていくという考え方が根本からないように思います。下記の図からも、人材の流動性の高さが全体のマーケットを盛り上げていることが読み取れます。

<a href="https://career.youtrust.co.jp/">YOUTRUST採用サイト</a>の資料より

YOUTRUST採用サイトの資料より

この人材の流動性の低さでは、マーケットに対して稼ぎ出しているのは自分ではなく、あくまで企業であり、自分の稼ぎは企業の業績次第だという考えになってしまう。これではお金儲けのリテラシーはなかなか上がらないのでは?と。

よくわからないものには、好奇心か嫌悪感を持つものです。

あとは、稼いでると公言して目立つことでビジネスをする人たちにロクな人がいないこと。笑
真っ当なビジネスをしていきたいという人は、同類にされるのを当然嫌がります。

労働集約、資本集約、テクノロジーがもたらす複利

貧乏の私は昔、自分の何がお金と交換されているのか?というのを意識する、ということを学びました。単純に自分の労力・時間と交換されているのか、自分が生み出したものが稼いでいるのか(のちにこれは PL や BS などの財務的な考え方ともつながると知る)。

今、世界の時価総額ランキングを見ると、TOP 10 はサウジの石油会社以外は全てテクノロジー企業です。なぜテクノロジー企業にお金が集まっているかというと、テクノロジーがもたらす複利が高い利益率と素早い成長を生み出しているからだと思います(雑)。

労働集約とは、読んで字のごとく、労働にとくに依存した収益の構造のことです。経済学では産業に対して使う言葉みたいですが、我々社会人は一つ一つの業務に対して使ったりしますよね。

労働集約は、売上を増やそうと思うと、労働者(つまり人件費)も比例して増えるという特徴があります。一般的な飲食店を考えるとわかりやすいです。あなたが繁盛するお店をつくったとして、今の営業時間内はずっと行列ができているとします。売上を増やそうと思うと、

  • 新しく人を雇って新店舗をオープンする / 増設して席数を増やす

  • 客単価を上げる

  • 営業時間を長くする

の 3 つがすぐ考えつきます。「客単価を上げる」以外は、労働を増やす方向に投資するしかありません。客単価にも頭打ちがあり、競合が増えると難しくなってきます。

一方で資本集約も産業に対して使われる経済学用語ですが、ここでは労働集約の逆である「労働に依存しにくい収益構造」の意味で使います。

例えば投資家。

あなたの 1 億円の資産を、アメリカの代表的な株価指数をつくる S&P500 銘柄に突っ込むとします。S&P500 は平均的には毎年7% くらい成長するので(例え話なので正確さは置いておいて)、翌年は 700 万円資産が増えるはずです。日本だと年収 700 万円であれば、一人で生きるのに十分です。

このときあなたは、スマホをポチポチして銘柄を選んで投資しただけで、一年間何も労働していません。そして次の年は 1 億と 700 万円に対して 7% 増えます。これが複利で、元本になかったお金が次のお金を呼び込む状態です。

労働集約寄りのビジネスをしている時、売上を上げるための 3 つの方法を上述しましたが、もう一つ「テクノロジーの活用」があります。私の周りのスーパーもセルフレジの導入が進みました。これにより、レジに必要な労働を減らすことができます。

なにも、機械を導入することだけがテクノロジーの活用ではありません。アパレルショップ店員は Instagram の個人アカウントをたくみに操り、フォロワーを増やします。新商品が出る度に Instagram で紹介すれば、店舗に会いに来てもらえます。SNS を活用して今までにない店舗売上を、たった一人で達成することだってできる時代になりました。

SNS で投稿すれば、あなたが SNS を閉じている時間も、あなたのアカウントはあなたのかわりに人を集客してくれます。こういうのをテクノロジーの複利だと考えています。

いわゆるテクノロジー企業の躍進は、人々にテクノロジーの複利を享受してもらう歴史だという見方もできると私は思います。例えば Google、例えば iPhone、、いくらでも我々がテクノロジーの複利を体感できるサービスは思いつきます。

ギグエコノミーと問題点

そしてここ 10 年で注目されてきたのがギグエコノミーです。Uber や Lyft、DoorDash などが有名ですね。日本だとスキマバイトのタイミーさんとかでしょうか。

例えばコロナ禍で激増したフードデリバリーの配達員などが使っているサービスがギグエコノミー企業です。個人がオンライン上で単発の仕事を請け負えるという特徴があります。何かを運ぶ、何かを代行する、など比較的誰でもできる単純労働が多いです。

ギグエコノミーは、労働集約型 × テクノロジーの複利 を実現させたサービス群だと私は考えてます。これまではちょっとしたスキマ時間にお金を稼ぐことができなかったわけですが、テクノロジーの力で、スキマ時間を単純労働に充てられます。

しかしギグエコノミーは近年、劣悪な労働環境が問題になっていて、グローバルでは非常に見方が厳しくなっています。例えばタクシー配車サービスの Uber は、そのアプリ利用者であるドライバーも従業員として扱うべきなのでは?と労働組合FNVによって訴訟されています。(そして裁判所は Uber とドライバー間の法的関係は、雇用契約の特徴をすべて満たしていると判断)

さらに中国でも、規制当局がギグエコノミーのプラットフォームに対し、配達員が最低賃金以上の収入を得られるようにすること、配達員がアルゴリズムによる不当な要求から解放されるようにすること、労働者が社会保障を受けられるようにすること、労働組合に参加できるようにすることを命じたりと、ギグエコノミーへの風当たりは強くなっています。

クリエイターエコノミーのDX

今年あたりからグローバルで「クリエイターエコノミー」というワードが流行しています。The HEADLINE によれば、

クリエイターエコノミーとは、YouTuberやインスタグラマー、ゲーム配信者などに限らず、アーティストやジャーナリスト、フリーランスなど様々な個人クリエイターが自身のスキルによって収益化をおこなう経済圏のことを指す。

ということです。

今思えば、過去 4 年間くらいで私と共同創業者の荻田が作り続けてきたのは、クリエイターエコノミーのサービスばかりです。箱ではなく「人」に注目するビジネスを立ち上げたいという想いでこれまでやってきた延長線上に theLetter があります。

クリエイターエコノミー企業は世界中に今やたくさんありますが、そういった企業はどんな介在価値を出してきたのか?というと、これまでリアルワールドで労働集約的だった個人やスモールチームのクリエイターたちに対して、テクノロジーによる複利を利用可能にし、資本集約に近いモデルで仕事ができるようにしてきたことだと思ってます。

どういうことか?

例えば、クリエイターエコノミー企業老舗のメンバーシップサービス「Patreon」の作家の Deverell さんは、4,000 人以上から月 30,000 ドル以上の売上があるそうです。手数料を引いても月 300 万円前後の手取りがあるはずです。

これまでの作家が年収 3,000 万以上稼ぐというのは、単価にもよりますが、10 万部 ~ 100 万部のレンジでのヒットを 1 年以内で飛ばさないといけません。書籍は年間 10 万冊弱ほど刊行される中で、100 万部突破の書籍は 1 年で 1 冊出るかどうかです。かなりの狭き門です。

それも、出版社の編集者に営業部の人、取次、印刷会社、書店の人、あらゆる関係者が尽力してその数字が出てきます。

一方、Deverell さんは一人で、たった 4,000 人のファンからその年額を稼ぎ出しているのです。

theLetter でも、平均的なサラリーマンの年収より、theLetter の収入の方が倍以上大きい書き手さんがいらっしゃいます。記事 1 本の単価に直すと、少なくとも 10 万円は超えている状態です。

一般的に、実績あるライターが有名メディアに寄稿したとしても、2 ~ 3 万円の執筆料が相場の中で、この単価はかなりインパクトがあるのではないでしょうか。

つまり、テクノロジーの複利を個人やスモールチームに開放することで、老舗産業のプロたちやこれからクリエイターになるルーキーたちが、仕事の単価をこれまでにない金額へとスケールできるのです。

クリエイターエコノミーは、労働集約的だったクリエイティブな仕事を DX することで、資本集約的なクリエイティブな仕事へと転換させる流れなんだと思います。

そしてクリエイターエコノミーは、プラットフォームからクリエイターへオーナーシップが権限移譲されていく流れへと変化するでしょう。この話はまたどこかで。

あとがき

クリエイターエコノミーについて思っていることを書いてみました。自分のユニークなスキルや、好きなことで生きていけるのはほんと夢があるなと。

こういうことを言うと、ooの時はどうするの?みたいなリスクに反射的に目がいく方もいらっしゃいますが、それは非常にいいご指摘です。そういうリスクを解決していってこそ、クリエイターエコノミーが良い成長を果たすと思います。

あと、JEPA|日本電子出版協会 さんという団体さんが毎年出されている「電子出版アワード」の 2021 に theLetter がノミネートされております👏

大賞以外の賞は投票で決まるみたいなので、よろしければ下記フォームの「チャレンジ・マインド賞」にて theLetter を選んで投票していただけないでしょうか?

妻の友人や妻のご両親にお願いしたら、さらにその友達に頼んでくれたり、ご近所さんに頼んでくれたり、謎にすごい協力してくれます。笑 めっちゃ嬉しい😊

あと最近、事業以外の活動だと料理をしたり勉強したりしています。その時間がちょっとした癒やしの機会になってます。

勉強しているとシェフの方々、食材をだいたい有機化合物で説明してたりするのが面白いです。「この料理のグアニル酸は、シイタケにしようと思います」みたいな。自分も火力や食材の切り方、フライパンに入れる順番など、全てに理由説明ができるようになりたいです。

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