今日のクリエイターエコノミー

クリエイターエコノミーは今ぶっちゃけどうなの?をまとめます。
itaru hamamoto (至) 2024.01.27
誰でも

2024 年一本目のニュースレター記事です。

クリエイターエコノミーという言葉がすっかり定着し、国内ではそのカテゴリでの協会ができたり、シンクタンクや銀行などもクリエイターエコノミー市場の分析レポートを出すようになったりしていますね。

クリエイターエコノミーど真ん中で事業を展開している自分が、この市場は今ぶっちゃけどうで、今後どうなっていきそうか?などをまとめてみたいと思います。

あまり更新頻度は高くありませんが、全部本気で書いているのでまだの方はぜひこの記事を機会にニュースレターにご登録ください。

***

最近のクリエイターエコノミー

クリエイターエコノミーは長期的には右肩上がりに成長するという見立てが多いと思います。例えば国内でも一般社団法人クリエイターエコノミー協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が調査したところによれば、2022 年の国内市場規模は前年比 21.9% 増の 1 兆 6,552 億円だそうです。

これは動画・テキスト・音声・EC のコンテンツはもちろん、ツール系もファンコミュニティ系も含まれます。

このままいけば 2030 年には xx 兆円だ!みたいな話も、上場企業の決算書類に書いていたりもしますよね。

生成AIという新たなゲームチェンジのトレンドは出てきているが、全体としては大きく外れない予想なのでしょう(たぶん)。

グローバルでみれば、アメリカが当然クリエイターエコノミーの分野でも進んでいるわけですが、The Information のクリエイターエコノミーのニュースレターによれば、2023 年の世界のクリエイターエコノミースタートアップの資金調達は前年比約 58% 減の約 17 億ドルだったそう(ただしアメリカ全体でスタートアップへの投資は 62% 減だそう)。

M&A や競合と合併、または廃業したクリエイターエコノミーのスタートアップは、前年より 2 倍に増えているそうです。投資家が AI に熱狂していなければ、資金調達額はもっと少なかっただろうとそのニュースレターには記載されています。

海外はもっと厳しそうですが、国内 VC と話したり、資金調達のプレスリリースを見たりしていると、クリエイターエコノミーはあまりパッとしない 2023 年だったと思います。そもそも調達できたところは少ないし、それなりの額の調達ができたのは VTuber やウェブトゥーンなどの IP 関連が集中していたように思います。

それはカバーさんなどの VTuber 事務所の好調などが背景にあると思いますが、UUUM さんの業績不振が影響したとみられる非上場化、note さんのダウンラウンド上場など、投資家には強烈な負の印象が残っているマーケットでもあります(VC さんと話すとわかりますw)。

そのため、今注目株の AI と掛け算を行った IR というか、銘柄の見せ方を行っていくような流れが上場・未上場関係なくあると思います(Web3 ブームのときもそうでした)。

まとめると、全体で伸びるとはコンセンサスが取れているものの、マーケットに所属する企業の株価(上場・未上場どちらも)は直近とくに魅力的な状況ではないというのが最近のクリエイターエコノミーへの見方な気がします。

クリエイターエコノミー市場の特性

なぜそんな見方になっているか?の自分なりの答えでもあるのですが、これはクリエイターエコノミーの 3 つの特性にある気もしています。

特性その 1:ミドルクラスの不在

スタートアップ的に成長するには複利が効かないといけないです。1 人の超アクティブユーザーが 100 人くらいのそこそこアクティブなユーザーを連れてくる、みたいなサイクルが回ると素早く成長できるのですが、クリエイターエコノミーにおいてミドルクラスを作るのはどこのスタートアップも苦労しています。

億稼ぐようなプレイヤーを数名だけ生むことはできても、月 40 万稼ぐプレイヤーを大量につくれるかというと難しい、みたいな話です。複利の掛け算の片側が弱いという実態があるのですが、これは以前こちらのニュースレター記事で取り上げました。

そもそも、出版業界や音楽・映画産業も同じだったはずです。そこそこ稼ぐ作家がたくさんいるというよりは一部の外れ値的な作家(またはコンテンツ)だけがヒットを飛ばし、他は専業では食えないといった状況に近いと思っていて、そういった産業をアナロジーにしてサービスをつくっている限り、ミドルクラスのプレイヤーをつくるのは非常に難しいと思います。

特性その 2:ソリューションが多く一強が生まれにくい

クリエイターエコノミーといっても、音声もあれば動画もあるし、物販のような EC もあります。広告で儲ける手法もあれば、サブスクもある。クリエイターによって「売りモノ」と「売る手法」の掛け算はかなり多様です。

クリエイターエコノミーのプラットフォームが対象クリエイターを増やすには、多くのソリューションを取り揃えるか、決済基盤のようなより低いレイヤーを取って間接的に対象クリエイターを増やすか、強いネットワーク効果をつくるか、どれかしかありません。

クリエイターエコノミーの雄である Patreon はライブ配信やグッズ販売のスタートアップを買収してソリューションを増やしていますし、BASE さんはネットショップから決済会社へと移行しつつあり、Substack はネットワークを作ろうと苦心しています(そしてその摩擦でトップクリエイターの脱退を許した)。

難しいのが、あらゆるソリューションは揃っていて欲しいものの、利用するクリエイター側からすればせいぜい 1 ~ 2 個くらいしかソリューションを使うリソースがないことです。

The New York Times は Podcast もショート動画も記事も全部あらゆるプラットフォームで展開していますし、広告やサブスクなどビジネスモデルも多様です。しかし1人のクリエイターはなにか一つの SNS で集客し、なにか一つのコンテンツフォーマットで、一つの売り方を選択するのがやっとです。

プラットフォームとしてあらゆるソリューションを揃えても、A さんは使うが、B さんは使わない、が横行しますし、ソリューション開発のリソースが分散する分、ある一つのソリューションに特化した他のスタートアップに負けてしまいます。

同様に、収益の大部分をインターネットで稼いでいるクリエイターからすれば、一つのサービスに依存するのはリスクです。Threads ができたとき、やはりいち早くサービスを使い始めたのはインフルエンサーたちです。Instagram や Twitter が衰退したとき、次に流行るプラットフォーム上で、ある程度フォロワーをつくれていないと仕事を続けられないからです。

このような理由から、「検索エンジンの市場」「ECプラットフォームの市場」のように、どこか 1 ~ 2 社が圧勝するのではなく、クリエイターエコノミー市場は特定のソリューションに特化した小型企業の集合体になる可能性があります。

特性その 3:トップクリエイターの脱退

UUUMさんの事務所から独立、Substack から独立、トップクリエイターが脱退しちゃう問題はクリエイターエコノミーのプラットフォームからすれば日常茶飯事です。

トップクリエイターはあるプラットフォームにとって売上構成比の高い重要な存在ある一方、機能やサービス開発の点でいえば全ユーザーの中ではかなりニッチなユーザーです。

トップクリエイターからの機能要望は、多くのほかのクリエイターユーザーからすれば不要な機能であることが多いです(例えばサイトの多言語化、広告出稿プラットフォームとの紐づけ、アナリティクスの強化、チーム機能の強化など)。

単一ソリューションのままでは、トップクリエイターはプラットフォームに頼らなくても自分の稼ぎから独自にシステムをつくれてしまう、そして集客は SNS 頼りとなってくるとあるプラットフォームに依存するインセンティブもとくにありません。

クリエイターエコノミーのプラットフォームは、一部の芸能事務所のような圧倒的支配力があるゆえの「干す」文化や、VTuber 事務所が持っているようなアバター IP の権利の所有などがない限り、ものすごいスピードであらゆるソリューションを追加していったり集客力に優れているプラットフォームであり続ける必要がありますが、これは昨今の調達環境ではなかなか難しい気もします。

今後のシナリオ

間違いなく、クリエイターを中心としたビジネスは発達していくと思われます。ただし、クリエイターエコノミー内で J カーブを描きながらスタートアップ的に成長できるサービスが今後いくつも出てくるかどうかは上述のようにわかりません。

米 VC はクリエイターエコノミーのような C 向けサービスへの投資の優先度を下げると表明していたり、実際 C 向けアプリをつくるのは難しいという分析があったり(文末の参考より)。

クリエイター向けサービスが、一気にスケールするのが難しい要因は様々ですが、クリエイターがお金を稼ぐことが難しい理由の一つに「彼女ら彼らはビジネスのプロではない」ということがあると思います。

MrBeast のようなアメリカのトップクリエイターや日本でいえばホリエモンやヒカルなど、インフルエンサーの領域を超えた「ビジネスを構築できるスキル」は、ツールやネットワーク効果ではスケールできません。

ただ面白い動画をつくったり記事を書いたりすることと、チームをつくったり自分のアセットを企業に売り込んだりするスキルは全く地続きではありません。

そういった背景もあり、1 社が大きく成長するには、以下のようなブレイクスルーを起こす必要があります。

  • ショート動画のような新しいコンテンツ形式を発明する

  • AI との組み合わせで新しいコンテンツ価値をつくる

  • ライブコマースのような新しいマネタイズ手法を確立する

新しいフォーマットは、ビジネススキルを抜きに、新たなクリエイターを生み出します。シンプルなプロダクトのままスケールし、ネットワーク構築も可能にするかもしれません。

以前、『なぜ商売っ気を出すと売れなくなるか?』で書いたように、人は人のマネをしたいと思うのです。大衆のモデルであり続けるクリエイター/インフルエンサーは今後も活躍することは間違いないでしょう。

2024 年は theLetter 含め、クリエイターエコノミーにとって良いニュースがありますように。

***

このニュースレターは自分のメインテーマであるメディアマネタイズ x クリエイターエコノミーの領域について発信しています。

それ以外の話題は以下の個人のウェブサイトで気ままに書いています。

今年は Podcast の更新も再開しましたので、皆さま 2024 年もどうぞよろしくお願いいたします(挨拶遅い)。

SNS でのシェアやコメントなどお待ちしております。

参考

無料で「Essays by Itaru」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
サブスクメディアにおけるフリーミアムと提供価値の関係
誰でも
「コメント機能」の体験を真剣に考えてみる
誰でも
ネット時代の情報のコモディティ化と向き合う
誰でも
メディアビジネスのロングテール
誰でも
クリエイターの「自由」獲得の歴史
誰でも
クリエイターエコノミーがDXするもの
誰でも
インターネットマネタイズ手法研究 1:サブスクリプション
誰でも
ニュースレターのメリット・デメリット