サブスクメディアにおけるフリーミアムと提供価値の関係

サブスクでどの程度のコンテンツを無料にするか?など整理しました。
itaru hamamoto (至) 2023.02.09
誰でも

読者の皆さん、こんにちは。theLetter の濱本です。今回はサブスクリプションについて書いていきます。

  • フリーミアムモデルとは?トライアルとの違い

  • サブスクメディアでの提供価値の種類は?

  • 提供価値ごとの無料・有料コンテンツの最適なバランスは?

  • フリーミアムモデルをどの程度採用するか?の決め方

など、様々なデータを俯瞰する立場じゃないと書けないことを気合い入れてこのエッセイに残しておこうと思います。

実は私の運営している Podcast『ザ・ラジオ // 濱本 至's Podcast』の「#7 サブスクコンテンツの有料・無料の割合は?」とリンクしている記事でもあります。

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それでは本文いきましょう。

本文の流れとしては、まずサブスクにおけるフリーミアムモデルやトライアルについて整理します。いわゆる「売り方」の整理です。その後、そもそもサブスクとして「売り物」はどんなものがあるか?という提供価値について言語化してみます。

そして最後には「売り方」x「売り物」をマッピングし、そのマス目ごとにフリーミアムモデルをどの程度採用できそうか?という1つの道標を残します。

サブスクにおけるフリーミアムモデル・トライアル

サブスクリプションモデルは、フリーミアムモデルが多いですよね。

フリーミアム、というのはフリーとプレミアムの造語で、無料コンテンツや無料体験で価値を伝えていき、有料プランをオススメしていくというものです。

Dropbox や Spotify、Zoom、Notion など法人向け、個人向け問わず広く採用されています。

一点区別しておきたいのが「トライアル」です。トライアルというのは、期間やサービス量の制限の中で割引や無料体験が受けられるというものです。U-NEXT などの動画ストリーミングサービスがよく採用していますよね。1 ヶ月無料というやつです。

「トライアル」はキャンペーン施策のようなもので、基本は有料版しかない Paid Only のサービスがよく使う手法です。フリーミアムは無料版が基本仕様としてつくられているサービスなので、同じ無料とはいえトライアルとは意味合いが大きく違います。

フリーミアムモデルのメリットは、なんといってもスケールしやすく顧客獲得コストを抑えやすい点です。無料なので利用開始ハードルが低く、シェアされやすいため、サービスが良ければ多くのユーザー数を短期間で抱え込むことができます。

また、無料ユーザーをデータ的に抱えることができるため、長期的に顧客関係を築くことができ、有料プランをオススメする機会を多く持てる点も大きなメリットです。

ただし、フリーミアムモデルでは多くのユーザーが無料プランのままで居続けてしまう、ということは想像に難くないでしょう。たとえば動画ストリーミングサービスのように、無料プランのユーザーでかつヘビーユーザーの割合が多いと、サーバー代が増えすぎて客単価によっては全く収支が合わないということになります。そのため、全てのサブスクサービスにとって良いモデルということではありません。

ここではメディアやコンテンツビジネスのサブスクモデルの「売り方」について整理してみましょう。

© @itarumusic

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整理として、サブスクの商品・プラン・施策を大きく分けました。

サブスクの商品は、商品体験のさせ方で分類してみました。全て無料にする寄付型、フリーミアムモデルを指すハイブリッド型、全て有料の商材型で分けています。

例えば実際のサービスを当てはめると Wikipedia は寄付型、Dropbox はハイブリッド型、U-NEXT は商材型にあたります。

そしてハイブリッド型は明確ハイブリッド型と曖昧ハイブリッド型に分かれます。明確ハイブリッド型は、無料で得られる対価と有料で得られる対価が明確であるという商品です。例えば、ファクトは無料ですがオピニオンは有料です、のような形です。Dropbox は明確なプランページがあり、明確ハイブリッド型です。

曖昧ハイブリッド型は有料版との違いをコンテンツではつけていない商品です。得られるコンテンツの形式やクオリティは変わらないのですが、配信頻度やアクセスできるコンテンツ数などで無料版との違いをつくっている商品はこの型に当てはまります。多くのサブスクメディアが当てはまりやすいです。

© @itarumusic

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以上、サブスクの商品 x プラン x 施策のうち、サブスクの商品の分解でした。

そしてプランは年額など期間単位で分け、施策はディスカウント(割引)やトライアルなど色々あると思います。

この 3 つの掛け算でその時のサブスクの「売り方」がある程度分類できると思います。商材型の U-NEXT が月額プランで 1 ヶ月無料トライアルを施策として行っている、というような感じです。

今回はプランや施策の話はサラっと触れるだけに留めておき、サブスクの商品について深ぼっていきます。メディアビジネスにおいて、どのような商品が寄付型・曖昧ハイブリッド型・明確ハイブリッド型・商材型にそれぞれ相性がいいのでしょうか?

メディアビジネスの提供価値の分類

私が分類したサブスク商品の型は、どれだけのコンテンツを無料にするか?という分類でもあります。商品をどの分類に当てはめるか?を考える前に、その商品自体の「提供価値」を考えておくと、相性の良い「売り物」がわかりやすくなります。

そこで私はメディアビジネスの「提供価値」をこうした整理にしてみることにしました。

© @itarumusic

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「知って使える」「知っておきたい」「知って楽しい」と分類しました。

「知って使える」というのはその情報を利用して何かを得ることができる、というような情報です。例えばインフルエンサーのコスメレビューは、自分がコスメを買うかどうかの判断に使える情報です。投資の銘柄分析なども、投資家にとっては今日・明日から利用できる大事な情報です。

「知っておきたい」というのは、政治のニュースやコラムなど、知った瞬間から何かに使える情報ではないものの、自分の考えを深めるための1つのファクトになったり、周囲の人間と関わる際に必要になるかもしれない情報です。ビジネス系の最新情報などもそうですよね。

「知って楽しい」は、自分の趣味や興味をより深めるための情報です。例えば、サッカー好きな人が、よりサッカーを楽しむために選手の情報や試合のレビューを見ます。このとき必要になる情報が「知って楽しい」です。

さらに少々雑で申し訳ないのですが、よりこの「売り物」の 3 分類の特徴を理解しやすくするため、コンテンツの価値・場の価値・サービス価値の分類をご説明します。

© @itarumusic

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メディアにおける「コンテンツの価値」は1つの記事や動画の価値のことです。直接課金モデルを採用するメディアの読者にとっては、「知って使える」コンテンツの価値は非常に高いです。対価が明確なのでお金を払う理由がつきやすいためです。

さらに最近はコンテンツだけでは価値提案が十分ではない、ということでコミュニティづくりに投資したり、オンラインイベントを開いたりと「場の価値」をつくろうとしているメディアが多いですよね。

そこに運営側とのコミュニケーションという意味でサービス価値があります。リアル店舗にとっての接客の良さみたいなイメージで分類しました。

メディアビジネスは無形商材です。原価がかかっていることを証明しやすい有形商材と異なり、より「影響力のある人による価値付け」「本能(モテる・金儲けできる・美しくなる)に訴えかける」などの要素が必要になります。

無形商材におけるコンテンツ価値はどうしても「知って使える」>「知っておきたい」>「知って楽しい」順になってしまいがちです。

WEB 上のニュースの「知っておきたい」カテゴリの情報がより PV を取るために、「有名人のxxも認めた!」のような影響力のある人による価値付けが散見されたり、センセーショナルになる = 本能に訴えるタイトルにする、という構図になるのも外から見た時のコンテンツ価値への期待値を高める工夫といえます。

コンテンツ価値だけではサブスクでマネタイズするのに十分でない場合、「場の価値」「サービス価値」を高める必要が出てきます。

例えば趣味に使える情報である「知って楽しい」カテゴリの情報メディアは、同じ趣味の人が集まるイベントやコミュニティをつくることでメディアの価値を高められるかもしれません。

自分たちの運営している / しようとしているメディアが「知って使える」「知っておきたい」「知って楽しい」のどのカテゴリで、コンテンツの価値・場の価値・サービス価値がそれぞれどのくらいありそうか?を考えることによってサブスクに耐えうる「売り物」をつくりやすくなるかもしれません。

私が整理した提供価値は上述のような形式ですが、Get Together による『What we learned from Substack writers about community building』による提供価値の整理を私が日本語に直した形式も軽くご紹介します。

© @itarumusic

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一言で言えば「なぜ読者はお金を払うのか?」の整理です。

「スキルを磨くため(Skill Development)」のようなわかりやすいものもあれば「大変な経験からの回復(Emotional Support)」など、言われてみれば確かに!というものもあるのでよければ参考にしてみてください。

提供価値ごとの最適なフリーミアムバランス

すでに文章が長くなってきていて申し訳ないですが、記事の最初の方で、サブスクメディアの「売り方」は寄付型・曖昧ハイブリッド型・明確ハイブリッド型・商材型に分かれることをご紹介しました。

そして、それぞれどんなコンテンツと相性がよいのか?をご説明するために「知って使える」「知っておきたい」「知って楽しい」と分類したコンテンツ価値と、コミュニティなどの場の価値やサービス価値などの組み合わせで「売り物」の提供価値を高められるということをご説明してきました。

ここでは、「売り方」x「売り物」の最適な組み合わせについて検討していければと思います。下図にまとめてみました。

© @itarumusic

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有料コンテンツが基本となる商材型は、提供するメリットがわかりやすい商品が向いています。なので「知って使える」情報を扱うメディアは有利でしょう。これを読めば「モテる」「儲かる」といったものであったり、資格を取るための何かであったり。得られるものが明確であり、人間の本能に訴えるコンテンツであればあるほど商材型に向いています。

一方で全て無料コンテンツだけで成り立たせる寄付型には「知って使える」は向いていません。そこには意義への共感だったりメディアへの応援の気持ちが必要となる「知っておきたい」情報が寄付型に向いています。公共性が高く、クオリティの高いジャーナリズムのコンテンツなどが当てはまるでしょう。

例えば、The Guardian は英国の寄付型メディアです。レポートによれば 2022 年は 100 万人のサブスク寄付の読者を突破し、100 億円以上のサブスク収益になっているそうです。The Guardian は無料と有料で得られるコンテンツは原則同じです。

「知って楽しい」メディアはコンテンツが無料、場の価値を有料にしていく明確ハイブリッド型が合うかもしれません。コンテンツそのものより、体験だったりつながりだったりに価値をもたせるようにした方が自然かもしれません。

そして、まだ提供価値が定まらないままメディアを開設することだって多々あるでしょう。そんなときには曖昧ハイブリッド型としてスタートし、読者ニーズを探っていくことでフリーミアムのままいるのか、寄付型や商材型に移行するのか判断ができるでしょう。

今日ご紹介した整理は基本的には私オリジナルのものです。他の整理も無数に存在するでしょうし、アクションしてみれば全く私のご紹介したケースが役に立たない、といったこともあるでしょうから、参考程度にしていただければと思います。

誰もがフリーミアムを考える時代

Twitter で集客して note で売る。Instagram でブランディングして BASE で売る。theLetter で無料記事を出しながら有料の読者向け記事を出す。

乱暴にいってしまえば、やっていることはみんなフリーミアムモデルといえなくもないと思います。これまで企業が大規模にマーケティングしてきたフリーミアムモデルを、今は個人が簡単に活用できる時代というわけです。

メディア企業だけでなく、パーソナルメディアをお持ちの個人の方々も、提供価値やフリーミアムバランスを理解することによってより読者メリットを最大化できるかもしれません。

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