ネット時代の情報のコモディティ化と向き合う

コンテンツを有料化し続けるための、コモディティ化との向き合い方についてアイデアを書いてみます。
itaru hamamoto (至) 2022.10.30
誰でも

読者の皆さん、こんにちは。theLetter の濱本です。

私が theLetter を始める前、

  • 投資家「無料で情報いっぱいあるのに、サブスクされるの?」

  • 事業家「人気のある内容ならすぐマネされて安売りされたら負けるんじゃない?」

  • 書き手ユーザー「私の書いてる内容が本当に課金されるのか不安です」

というご意見を何度もいただきました。

これらの疑問が出るのは至極当然のことだと思います。インターネットはどこを見ても情報で溢れていますし、課金を勧めるポップアップの閉じる(Skip)ボタンを押した経験は、誰もが何十回とあるはずです。

今回は、情報の発信者が、インターネット上の情報のコモディティ化とどのように向き合えそうか?について、私見をつらつらと書いていきたいと思います。

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なぜコンテンツはコモディティ化するのか?

YouTube でモーニングルーティン動画が流行る、Twitter で図解 & 箇条書きツイートが流行る、Instagram で画像に文字をたくさん掲載した読ませるコンテンツが流行る、などコンテンツの形式やネタというのはすぐにコモディティ化してしまいます。

― なぜコンテンツはコモディティ化するのか? ―

この問いに答えるためには、インターネットならではの特徴と絡めて様々な観点から検討する必要があります。

中でも、私が面白いなと思っている観点は以下の 4 点です。

  • 値付けが自由

  • 限界費用がゼロに近い

  • ソーシャルメディアのアルゴリズム

  • オフラインに商品がある人の参入

まず、1 の「値付けが自由」という側面について。

インターネット上のコンテンツ(とくに無形商材)は値付けが比較的自由です。というのも、インターネット上のコンテンツは、その発信者に依存した商品が多く、似たコンテンツを比較しにくいからです。

インターネット空間は広く、商品棚のようなものがないため、発信者は全てのコンテンツを比較して自分のコンテンツの値付けを行うことが困難です。似たコンテンツを持つ別の A さんより 100 円安くしよう、みたいな比較が非常にやりにくく、価格の調整メカニズムがはたらきにくい環境だと思います。

値付けが自由、ということは 0 円で売っても(配っても)いいわけです。そういった環境下では、コンテンツがコモディティ化するスピードも早くなります。

そして 2 番目の「限界費用がゼロに近い」という特徴を無視するわけにはいきません。限界費用は、生産量を増加させたときに追加でかかる費用のことです。

あなたが行列のできるラーメン屋さんを営んでいて、その状態から売上を倍増させるためには、人件費や店舗にかかる費用を倍増させて店舗を増やす必要があります。しかし、インターネット上では、一度作品をネット上に置いておけば、その作品が売れている間に次の作品づくりを行えます。売上を倍増させるために費用を倍増させなくてよいのです。

ようは、ちょっとした売上を出すためにコストがほとんどかからないということです。コストがかからないということは、参入障壁が低いということなので、これもまたコンテンツがコモディティ化しやすい要因の一つです。

さらに 3 番目「ソーシャルメディアのアルゴリズム」

ソーシャルメディアのほとんどは広告が主な収益源です。広告を収益とするには、在庫であるコンテンツの imps が重要で、よりユーザーにコンテンツを見てもらうためには大衆にウケるようなコンテンツをユーザーにたくさん作ってもらう必要があります。

ソーシャルメディアは影響力や承認欲求を満たすといった報酬をユーザーに渡します。そしてその報酬を、よりたくさんのユーザーの目を引くコンテンツを投稿したユーザーに配る、といった仕組みになっています。

「画像をつけた方がバズリやすいらしい」「正解はコメント欄を見てねって書く方がおすすめに載りやすいらしい」「箇条書きにした方がいいね!数が伸びるらしい」などなど、こういった話は枚挙にいとまがありません。ソーシャルメディア側がより評価する(= より広告在庫が増える)コンテンツを多く作るよう、常にユーザーである我々は何らかの形でプレッシャーを受けているわけです。

ソーシャルメディアのプラットフォームからすれば、よりバズる(より多くの人の注目を引く)コンテンツのフォーマットは、できる限り大勢のユーザーにマネして量産して欲しい。

このように、(プラットフォームから見て)優れたコンテンツフォーマットをマネすることにインセンティブがある世界では、コンテンツがコモディティ化するのは必然でしょう。

最後に 4 番目の「オフラインに商品がある人の参入」についてお話します。

これは 1 や 2 と関連した話なのですが、インターネット上は「商売したい人」と「集客したい人(影響力を持ちたい人)」が同じ領域でよく競合します。

どういうことか?というと、例えばある有料のビジネスニュースを展開している人がいるとします。その人はビジネスの領域で価値あるニュースを届けようと頑張っています。

一方、インターネット上ではなくオフラインでコンサルティングの仕事をしている人がいるとします。その人はインターネット上よりもコンサルティングの仕事の方が収益が大きいと考え、インターネット上で集客し、オフラインでのコンサル業務の受注を期待することにしました。そこで、集客のためのビジネスニュースを全て無料で提供しました。

通常、価格が無料か有料か、というのはとても大きな競争力の差があります。たちまち、有料でビジネスニュースを提供している人は、オフラインでコンサルティングをしている人に顧客を取られてしまう、というようなことが様々な領域で起こっている気がします。

集客を目的とする人は気楽な気持ちでコンテンツを無料公開できるため、コモディティ化したコンテンツを提供することにもインセンティブがつきやすいと思っています。

コモディティ化しないコンテンツとは?

そんなインターネット上の商環境で、コモディティ化しにくいコンテンツをつくっていくにはどうすればよいでしょうか。

実は、私が所属するスタートアップ界隈も、起業するハードルが低い(限界費用がゼロに近い)ため、機能やサービスがコモディティ化しやすい環境です。似た機能やデザインがすぐに競合サービスで実装されてしまいます。

なので我々スタートアップの起業家は、競合優位性をどのように保つか?という問いに、いつでも答えられるようにしておかなければならないのです。

「Moat(モート)」という言葉があります。城壁周りの堀を示す言葉で、参入障壁や競合優位性の強度を示すときに「Moat が深い」のように用いられることがあります。スタートアップ起業家に限らず、インターネット上でコンテンツやコンテンツを中心にしたサービスを有料で提供する場合はこの Moat を深く築く必要があります。

例えばですが、Android のスマホは安いデバイスも多く出ています。基本的には iPhone でできることのほとんどができると思います。しかし、日本人は高額な iPhone をかなりのシェアで持っていますよね。これは Apple 社の製品にブランドという Moat があるからです。

同じく、Netflix もたくさんの動画ストリーミングサービスが参入したあとも優位性を保っているのは、巨額のお金で Netflix でしか見れないオリジナルコンテンツ郡という Moat を築き上げたことが大きく影響していると思います。

しかし、先程からご紹介している事例は、あくまで「会社」や「巨大な IT サービス」といった単位です。

残りの文章で、コンテンツとそれをつくる発信者が、どのように Moat を築けばよいか?というアイデアを出してみたいと思います。

情報発信者の Moat(モート)の作り方

インターネット上で何かを売るためには、影響力や人気を得るために無料コンテンツ(ときにはコモディティ化したコンテンツ)を量産する発信者より深い Moat を築く必要があります。

今回はそのためのアイデアを 6 つ考えてきました。これらのアイデアをすべてつくろうとするのではなく、どれか 1 ~ 2 個を尖らせるのがよいと個人的には思います。

  • コンテンツを通して「場」をつくる 🌿
    まずはコミュニティをつくるということを紹介したいです。
    とくにニュースレターなどは、一貫したテーマでコンテンツを提供していると、同じようなニーズのある似た属性の方が集まってきます。

    そうした人たち同士をつなぐと、また新しい価値になったりします。
    同じ趣味・同じ課題などを持った人をリアルの世界で見つけるのは意外と難しかったりします。
    パンデミック以降、リアルな場でそうした場をつくり難くなっている今、コンテンツきっかけで集まった方々で楽しい「場」をつくるというアイデアはとても良いと思います。
    コンテンツはマネできても、同じ「場」をマネることは非常に難しく、強力な Moat となることでしょう。

  • 個性を出して「ブランド」をつくる 📣
    ブランド、というと非常に大袈裟なもののように思いますが、もちろん個人やスモールチームでもブランドをつくることはできます。

    なるべくキャッチーに「いつも○○な観点でxxを考察しています」と毎日毎日伝えていると、そういう風なブランドになると思います。
    「あの人といえば、○○の人だよね」と言われ始めることを目指しましょう。

    私たちがスマートフォンや PC を買うときに Apple を、スニーカーを買うときに Nike を思い浮かべるように、第一想起の取れる個人ブランドを想像しましょう。
    ブランドはすぐに作ることはできません。だからといって、つくろうとせずに勝手にできるものではありません。
    意識してブランドを打ち出していきましょう。

  • 専門性を活かしたオピニオン 👑
    「ファクト」というのは誰が言っても同じですが「オピニオン」は人によって多少異なるものです。

    そしてそのオピニオンが自身の専門性と結びついているとなお良いです。Twitter を運用されている方はわかると思いますが、思ったよりも人はファクトより他人の意見を気にしています。
    事実や分析を伝えたあと「私の考え」を伝えるセクションを設けることも一案です。

  • 圧倒的な量 / スピード 🐈
    あるコンテンツ形式がコモディティ化していったとしても、最も高い頻度と早さで供給していけば、その分野でトップになることができます。

    費用対効果が合うかどうか?を入念に考えるタイプの方には向かないかもしれませんが、専門性や多くの人からの認知を持たない方でも実践できる手法でもあります。

    意外とインターネットは供給量勝負だったりします。人気なメディア、人気な Podcast、人気な YouTube を開いて、どのくらいのペースでコンテンツを供給しているのか見てみてください。とんでもない量が短期間に投入されていることが多いと思います。

  • 人が払わない労力を払う 📊
    これも 4 と似ていますが、誰でも始めやすい方法です。
    足を運んでの取材、手を動かす分析、何かをリスト化するなど、みんなが欲しい情報を自分が苦労して集めるのです。
    例えば、街頭インタビューや、各社の決算書をきれいなフォーマットに落とし込んだり、様々な方法があります。

    みんな骨の折れることはしたくありません。みんなの苦労を自分が肩代わりするのです。
    己の苦労を肩代わりしてくれた人には、信頼なりお金なりを託したくなるものです。

    ただし、ニーズがあると思われるものである、というのが重要です。誰も欲しがらないものを苦労して用意しても、自分の骨折り損で終わる可能性があります。

  • ポジションによる優位性 / 約束 💡
    これは、そもそも自分の立場がユニークである、ということを押し出すことによって成立します。2 のブランドづくりと合わせて考えるとよいでしょう。

    例えば、美容や健康情報は PR で溢れ、何が本当なのか一般の消費者では判断がつきにくいですよね。
    インフルエンサーが本当のことを言っているかどうかも定かではありません。
    そうしたところに、「案件を一切受けない」「研究者である」といった約束やポジションがあるだけでも価値になることがあります。

    その業界において、人々の困っていること、あるいは期待されるポジションはどこか?ということを一度考えてみるのも面白いかもしれません。

以上 6 つのアイデアでした。

もちろん、他にも数多くの Moat の作り方があると思います。よかったら皆さんのアイデアもぜひ教えてください🙇🏼

少々余談ですが、私が事業を運営してきて気づいたことの一つに「共感は Moat になりにくい」ということがあります。

多くの人からの「共感」はコンテンツの拡散を助け、SNS でいうところのエンゲージメント向上には非常に効果的なのですが、共感だけでは登録や課金といったアクションにはつながりにくい、という肌感覚が私にはあります。

やはり人が財布を開くのは「差分」や「意義」といったところにあるのではないか?なんて最近思っています。もちろん共感は必要です。しかし共感だけではお金を払うまでのコンテンツにするのは非常に難しいのです。

Moat を別の部分でつくり、うまく「共感」を取り入れつつ認知を獲得できるようにしたいものです。

さいごに - 自由な発想と行動量による優位性

色々小難しいことを書いてきましたが、このようなことを一切意識せずとも Moat を作ることはできると思います。インターネットは限界費用がゼロに近い。そのため、何度でも何度でも失敗できるというメリットがあります。

戦略や仮説を立て、商品を考えて PDCA する、、、そんなコンサルチックな戦い方をしなくても、「やってみたら結果出た」が出るまで自由に色々やりまくる、というのも実はとてもいい戦略だと思います。

構造化したものを使えば使うほど、自由な発想を縛ることにはなるので、自由にやっていきましょう。

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