クローズドコミュニティと縦のインターネット

今回は、閉じゆくインターネットについて、最近考えていることをエッセイとしてアウトプットしてみます。
itaru hamamoto (至)
2021.01.29
誰でも

前々回、ニュースレターとメルマガの違いについてというエッセイについて、Twitter 上でいろんなご意見いただけました。私が勝手に決めた定義だったので、わかりやすい!という声もありつつ、本当にそうなの?みたいなご意見もいただけてすごく勉強になりました。自らシェアしたからこそ得られる観点ってたくさんあるな〜と改めて感じました。

さて、今回は「クローズドコミュニティと縦のインターネット」について自由に思考をアウトプットしたいと思います。インターネットは情報で溢れているし、SNS を利用すれば様々な情報を取得できるとともに、普段知り合えないような人とも繋がることができます。

ところが、今のインターネットは誰もが参加でき、オープンな場であるがゆえに強い副作用もあります。Attention(注意・注目)の奪い合いに起因するフェイクニュースや扇動的(煽り)なコンテンツの流通、コンテンツのマッチングアルゴリズムによるフィルターバブルの助長など。トランプ元大統領の SNS 締め出しの件もあり、近年さらに関心が高まっているテーマかと思います。

我々はネット上の個人やコミュニティからの発信をデザインし直したくて theLetter をはじめました。だからこそ、共同創業者の私がこの件についての考えの軌跡を、定期的に残しておくことは意味があることなのかなと考えています。

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閉じゆくインターネット ~ クローズドコミュニティ

メディア、D2Cブランド、個人クリエイター、スタートアップ起業、多くの分野で「コミュニティ」という言葉がキーワードになっています。そして、その言葉は多くの場合クローズドコミュニティを指します。外から何をしているのか知る術は少ないけど、一度入ってしまえば、そのコミュニティ内では盛んに情報共有が行われているような場所です。

そもそも何で今、クローズドコミュニティなのか?という事を語るには、多くの論点から考察していく必要があります。

結構大風呂敷を広げてしまったので、回収していけるか不安ですが、あくまでエッセイであることを言い訳に(笑)自分なりに丁寧に思考を整理してみます。

まずは匿名性から実名へと SNS のトレンドが移っていった背景を、リアルとインターネットの対比をしつつ考えます。ここでコミュニケーションの方向性として「横」「縦」の考え方もご紹介します。そしてフィルターバブルと分断の話では、クローズドコミュニティの問題点について触れながら、いかにそれらを避けながら新しいソーシャルをデザインしていけるか?という点を最後に考えていきます。

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匿名性とオープンなソーシャル・ネットワーク

私は SNS が大好きで、中学生の頃から PC ゲームのハンゲームで人と繋がったり、モバゲーでアバターを買ったり、mixi でコミュニティを運営したりしてきました。

その頃はインターネットの自分と私生活の自分はなんだかそれぞれ別の人間であるような体験でした。実名制の Facebook も海外では生まれていましたが、日本人の元にほぼ流通しておらず、国内では実名制なんて概念が存在していませんでした。SNS アカウントを実名にしようもんなら、「リテラシー低い」と言われるような時代でした。

その頃は個人とソーシャルアカウントが紐付いておらず、純粋にソーシャル上だけでのコミュニケーション目的や、リアルの友人とオンラインでも繋がるために利用されるケースがほとんどだったのではないでしょうか。私も友人とバカなホムペ(HP)を立ち上げて掲示板を盛り上げたり、ブログを書いたり、活動的でした。

Facebook が生まれ、スマホが生まれ、そもそものインターネット人口が増えました。人口だけでなく、人々のネット上の滞在時間も大きく成長しました。そうなった時はじめて「ネット上でも実名であるメリット」が生まれ始めるのです。ここで重要なのが、注意経済「Attention Economy」という概念です。ハーバート・A・サイモンという経済学者が最初にこのカテゴリに言及した人とされています。

情報が豊富な世界において、情報が豊富であるという状態はそれ以外の何かが不足していることを意味する:情報が消費される目的は何であれ、何かが不足しているということである。情報の消費は、受け手の注意力を消費するということである。したがって、情報の富は注意力の貧しさを生み出し、注意力を消費するかもしれない過剰な情報源の中でその注意力を効率的に配分する必要がある。
(Simon 1971, pp.) 日本語訳は私(itaru)
Herbert Alexander Simon 1916年-2001年 - itaru.theletter.jp
Herbert Alexander Simon 1916年-2001年 - itaru.theletter.jp

注意経済学では、

  • 情報は常に溢れ続ける
  • 人間の注意力は有限

という前提に立ち、それをどのようにフィルタリングして適切に配分するか、ということに焦点が当たります。

このエッセイでは、「注意経済」を

「情報資産の消費活動の適切な分配を目指した結果、コンテンツ自体が注意力を引きつける要素を帯びなければならなくなった社会」

として記述していきます。

注意経済を助長する仕掛けとして、

  • 広告モデル
  • 注意経済のインセンティブ

の 2 つがあります。

まず、1 の広告モデルについて。

広告モデルというのは、悪でも何でもなく、人々に無料で情報を流通させる仕組みです。世の中には人が集まる場所に広告を出したい人が存在するので、我々は SNS を無料で使い続けることができますし、多くのメディア記事を無料で読むことができます。そして、広告モデルで駆動する SNS は個人が配信するコンテンツ、またはパーソナリティ自体に「注意」を集めるものです。SNS は人の「注意」を集められる個人やコンテンツを、より「注意」を集められるよう支援することで(承認欲求を利用するパターンが多い)、広告を出せる枠 = 在庫 を増やしてきました。「バズる」「炎上」とは SNS からすれば、売上に変わる在庫を増やす仕組みの一つなのです。

そして、2 の注意経済のインセンティブについて。

得をするのは、SNS というプラットフォーマーだけではありません。そのコンテンツを出した個人は、集まった注意をお金に直接的・間接的に変換することができます。インフルエンサーが誕生し続けるのも、起業家が必死に Twitter をやるのも、執筆でお金を稼いでいるフリーランスライターが無料で note 記事を書くのも、そういったインセンティブがはたらくからです。簡単に言えば、名が売れる、という事ですね。

1 と 2 の仕組みが回ることによって、オフラインでの仕事に複利が効く人にとっての「ネット上でも実名であるメリット」がどんどん増えました。実名かペンネームか、というのは実はあまり重要ではないですが、実名でインターネットを利用する人たちが多くなってきたというのはそういった背景があると私は捉えてます。個人に集まるリアルでの評判とネットでの評判が一致してきます。そうなってくると、どんどんオンラインの世界もオフラインの世界観に近づくことになります。ネット上での誹謗中傷は昔からありましたが、2020 年は「芸能人だって人間なんだ」「だったらネットなんかやるなよ」みたいな意見が飛び交っていたのも、オフラインの世界観に近づいているサインだと私は考えています。

人間のソーシャル性において、リアルとインターネットの境界が溶けてきているのです。

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縦と横のコミュニケーション

リアルとインターネットの境界が溶け始めた時、最も初期に価値があったのは「横」のコミュニケーションでした。

なぜなら「横」のコミュニケーションは、リアルの世界には不可能なことだったからです。北海道に住むギタリストが沖縄に住むドラマーと繋がることは、人を介してしかありえませんでした。しかし、ネットでは Twitter や YouTube で見かけて、声をかけることができます。

mixi、Twitter、Facebook、Instagram、TikTok、数々の SNS が誕生してきましたが、基本的には「横」の価値が高いプラットフォームが多いです。そういったプラットフォームは多くの人の出会いやコンテンツとの出会いを仲介し、人間の注意を獲得し続けることでマネタイズしてきました。

Facebook, Snapchat, Instagram の創業者たち - itaru.theletter.jp
Facebook, Snapchat, Instagram の創業者たち - itaru.theletter.jp

そこで今起こっていることが「横」の摩擦です。ネット人口が増え、リアルとインターネットが溶けてきたことで、ネットにしかできないことをネットに求める感覚が薄れてきました。ある起業家が「キングダム」や「ワンピース」を引用しながら自身の考え方を Tweet した時に、キングダムガチ勢やワンピースガチ勢から叩かれる可能性がある。少年漫画について Tweet した時に、フェミニズムの文脈の方から引用RT で攻撃される、というような事も起きます。私は少年漫画が大好きですが、ダイバーシティの観点からすれば、問題のあるセリフやシーンは多いように思います。文脈が違えば批判の対象になりうるのもわかります。

事実情報に誤りがなかったとしても、あるコミュニティでは分かりやすい説明でさえ、別のあるコミュニティでは問題発言、ということが起きます。つまり、文脈を互いに理解していないコミュニティ同士が、理解しないままにマッチングしてしまうという事が起こっているのです。これが昨今の SNS 上での過ごしにくさに繋がっているのかなと考察しています。

リアルの世界ではそういった摩擦が 0 かというと全くそうではないのですが、オンライン上ほど頻繁ではありません。なぜならリアルは、文脈を理解した同士が集まりやすい、あるいは文脈を理解してもらうチャンスが大きいからです。ここでは、コミュニティへの文脈理解の深さという方向性を「縦」と表現します

クローズドコミュニティが多く立ち上がってきたのは、「横」のコミュニケーションの副作用により、「縦」のコミュニケーションをネットに持ち込む必要性が大きくなった、という背景があるからだと考えています。

ところが、ここで大きく問題になるのが「フィルターバブル」「分断」といった言葉で表される諸問題です。

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フィルターバブルと分断を避ける

フィルターバブルの定義は、Wikipedia によると下記になっています。

「インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断する機能」(フィルター)のせいで、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること。

人間は自分の考えを肯定したり補強するような情報を集めやすい性質があるので、そこに対してこういったアルゴリズムを当ててしまうとフィルターバブルが加速してしまいます。

一方で社会の分断についての話題も、特にグローバルではホットトピックです。

私が好きな The HEADLINE さんというメディアで、テック企業によるトランプ大統領の排除、何が問題で、何をもたらすのか?という記事があります。そこの内容を引用すると、

もう1つは、双方が説得を諦めはじめるリスクだ。成熟した民主主義や市民社会にとって、最も警戒すべき項目の1つに、市民の無気力がある。分断それ自体が問題なのではなく、「説得しても、どうせ相手の考えは変わらない」と人々が諦め始めたときに、民主主義は死に始める。
現状ではSNSのトレンド機能などを通じて、我々は価値観を共有しない人々の意見を目にする機会が担保されている。それは愉快な経験ではないかもしれないが、完全に分断された世界よりはマシかも知れない。しかし、SNSが閉鎖的なコミュニティへと変質していくことで、人々はますます相互理解の機会を失うだろう。その結果として、他者を説得したり熟議するための機会を失っていく可能性が高い。

クローズドコミュニティ内に閉じこもってしまうと、社会の分断が起き、コミュニティ間で互いの文脈を伝え合って説得する、という機会が失われる危険性があります。

今後様々な SNS の形が出てくると思われますが、クローズドコミュニティのトレンドを抑えてくるものが多いはずです。今スタートアップ界隈で話題の Clubhouse もそれに近しい使用感があります。そして我々のようなニュースレターという形も、読者が書き手を選んで受け取ることができるという性質上、分断を助長していると取れなくもないです。

Twitter はこのような問題に取り組むための Bluesky というプロジェクトが始動しているそうです。最近、Twitter はニュースレターのスタートアップ Revue を買収したり、Clubhouse の機能を真似た「Spaces」という機能もテスト中です。クローズドコミュニティも上手く扱うよう、進化しようとしているのかもしれません。

Twitter 社の bluesky プロジェクト - itaru.theletter.jp
Twitter 社の bluesky プロジェクト - itaru.theletter.jp
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コミュニティ間のコミュニケーションをいかにデザインするか?

どんな SNS でも、コミュニティは構築されます。ここで重要となるのは、コミュニティ間のデザインです。Twitter は RT やトレンド機能があり「このコンテンツは注意を引きつける」と判断されたコンテンツが、より多くの注意を引きつけるようデザインされています。つまり注意を引きつけるコンテンツが、コミュニティ間を飛び越えるように設計されているのです。

実現可能か?という話はさておき、文脈理解・文脈説明がなされないままコミュニティ間をコンテンツや人が拡散していく、という仕組みに人々は疲弊してきました。これも昨今のクローズドコミュニティの流行の背景だと考えています。

「コミュニティづくり」と言うと、多くの場合はコミュニティをいかに盛り上げるか?いかに継続させるか?のような議論が多いです。しかし、コミュニティ「間」のコミュニケーションをいかにデザインするか?というのもセットで議論を行わないと、社会の分断は止まりません。

ここでヒントなる考え方を USB メモリなどの企画者として有名なビジネスデザイナーの濱口 秀司さんの著書(論文)やインタビュー記事に見つけました。ちょっとググり直したけど見つからなかったので、ピッタリ引用にはなりませんが、以下のような考え方です。文脈としては、どういった時にイノベーションが起こるか?という文脈です。

  • 専門家ほどバイアスに囚われやすい:
    ボストン大学で二四人の放射線科医を対象に実施した別の実験を紹介しよう。被験者に肺のCTスキャン画像を一〇枚見せ、それぞれの画像から一〇個のがん細胞を発見させるという内容だ。彼らにとって日常的な作業であり、次々と細かながん細胞を発見していくのだが、実は五枚目の画像中にゴリラが写っている。ゴリラの大きさは通常のがん細胞の約四五倍もある。被験者が装着しているアイ・トラッキングの動きからも、彼らの目線がゴリラの上を通過していることは明らかだが、ゴリラの存在に気づいたのは二四人中わずか四人。実に八三%の専門家がゴリラの存在に気づかなかったのだ。「五枚目の画像にゴリラがいるんですよ」と種明かしをした後でさえ、「そんなものは見つからない」と言い切る者まで存在した。
  • ある領域のイノベーションの起こし方:
    A という領域にイノベーションを起こしたい場合、B という領域で専門性を身につけた者が、A という領域に入り込み、A 領域の中から B 領域の仲間を A に呼び込む。

上記の 1、2 の文脈はイノベーションや事業づくりですが、コミュニティ間のコミュニケーションにも同じことが言えるのではないかな?と考えています。文脈を説明したり、説得したりする時には、コミュニティ同士でいがみ合うのではなく、両方の立場や文脈を理解した人間がコミュニティ内の人間を別コミュニティに呼び込んだりして考えが浸透していくものなのかなと。現実はそう甘くないかもしれませんが、このアプローチは試したいなと考えています。

クローズドコミュニティは作るけども、近いコミュニティ同士では一部コンテンツを流通させながら、コミュニティ間の移動や交流を行えるようなイメージです。

Next SNS? - itaru.theletter.jp
Next SNS? - itaru.theletter.jp

ニュースレターは縦方向にコミュニティを作っていくのに適したチャネルなので、縦を制してから横に広げるアプローチに対して、良い切り口を考え続けます。

IT 業界のトレンドは目まぐるしく変わり、競争も激しいので、スピード感を持って色々と試しながら良い形を模索していきます。

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あとがき

今回のニュースレター記事、どうだったでしょうか。私自身としては、こういう内容があれば読みたいな!と思えるかどうか?をいつも意識しているのですが、それは多くの人にとっては不要なものなのかも。笑

よかったら Tweet などで感想や意見をご発信ください。冒頭にも書きましたが、批判的な内容だったとしても非常に勉強になるのです😌

今回のような内容が引き続き読みたいな!という方はぜひ下記よりニュースレター登録をお願いします🙏🏻

個人の発信についていつも考えを巡らせているのですが、大きく 2 タイプの人がいるようです。

  • 自分の考えを表明したい(整理目的・貢献欲求・承認欲求)
  • できる限り表明したくない

私はおそらく前者のタイプですね。笑
後者のタイプの人がよく言うのは「自分よりすごい人がいるのに、知ったように語るのが怖い」といった意見です。そういう方は、他人からどう見られるか?をちゃんと気にすることができている人だと思います。

後者のタイプの人が気兼ねなく自身の知見を GIVE できる環境をいかに作るか?というのは今後面白い論点だなと考えています。専門書にも入門〜上級者まであるように、各段階で必要な粒度や難易度ってあると思います。上級者からすると質が低いと思われる内容でも、初心者からしたら分かりやすい!って機会が失われるのも怖いなと思います。業界のトップ層が初心者〜上級者向けの知見を全てアウトプットできるとも思いませんし。

ちなみに私の Clubhouse アカウントこちらです。よかったらフォローしてください🤫

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ではまた次回のニュースレターで。

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