プラットフォームとメディアの違い

プラットフォーム企業とメディア企業の違いや状況について、徒然なるままに書いてみようと思います。
itaru hamamoto (至) 2021.06.19
誰でも

みなさんは「プラットフォーム企業」と「メディア企業」の違いをパッと答えることができますか?

なんとなくフワっとした単語として世の中に広まってる気がします(AI とか DX みたいにw)。私も「theLetter はプラットフォームなのに、サポートがしっかりしてるね」「theLetter さんはメディアとしてのコンテンツの編集についてどうお考えですか?」のようなご意見をよくいただきます。

Twitter や Facebook のような SNS はソーシャル「メディア」と呼ばれてますが、運営者側は自分たちのことを「プラットフォーム」と呼ぶことが多い気がします。例えば、Twitter というサービスは Twitter platform という文字が公式のヘルプページにあったりします。

note さんは、

noteはクリエイターが文章や画像、音声、動画を投稿して、ユーザーがそのコンテンツを楽しんで応援できるメディアプラットフォームです。
noteの使い方、機能紹介 | 公式note

メディアプラットフォームと自社のサービスを呼称されています。

なんとなく、誰でも自由に発信できるサービスはプラットフォームっぽい。その結果情報が集まり影響力を持ってくると立派なメディアとも言えそう。ここからは皆さんと一緒にメディアとプラットフォームについて考えていければと思います。

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プラットフォームとアグリゲーター

自分はエンジニアというバックグラウンドがあり、さらにシリコンバレーの情報収集が趣味ということもあるので、プラットフォーム論の多い Ben Thompson 氏が運営するニュースレター Stratechery の Platform vs Aggregators シリーズで言われている定義をプラットフォームの基本として考えています。

彼によればプラットフォームとは、エコシステム全体を構築するための基盤を意味しています。アグリゲーターと明確に定義を分けて考えていて、その違いは「サードパーティ」との関係性によって分けられます。Ben 氏の図を引用すると、こんな感じです。

プラットフォームは、ユーザーとサードパーティとの関係を促進するものです。
Ben Thompson

アグリゲーターは、ユーザーとサードパーティを仲介します。
Ben Thompson

これだけだと分かりづらいかもしれません。Shopify と Amazon の違いはよく例に出されます。プラットフォームとして有名な企業は Shopify でしょう。ネットショップを立ち上げるサービスの起源にしてグローバル頂点のサービスです(起源は言い過ぎ)。プラットフォームはユーザーとサードパーティとの関係を促進するものです。Shopify 上では多くのネットショップビジネスの立ち上げ人が、サードパーティ開発者のつくるプラグインにアクセスして、自身の顧客と関係をつくることができます。

一方、Amazon の EC サービスはアグリゲーターです。Amazon は多くの出品企業を抱えていますが、顧客はあくまで Amazon に買いに来ています。出品者の名前など、気にしている顧客は少ないでしょう。Amazon という巨大なマーケットプレイス上で顧客とサードパーティを仲介しているのです。

ちなみに以前、メディアにおけるモール型とスタンドアローン型 という記事を書きましたが、これは実はプラットフォームとアグリゲーターの違いの話だったのです!!

上記のアグリゲーターの Ben 氏の図を見ると、リクルート社のリボンモデルを思い出します。リクナビやホットペッパービューティなどがこのリボンモデルに当てはまります。

リクルート社はこのアグリゲーションをシステムで全てを担っているわけではないです(リクルート社 = 営業強い イメージありますよねw)が、まさにアグリゲーターの代表例かもしれません。

私がアグリゲーターではなくプラットフォームが好きな理由は、プラットフォームが「人類をエンパワメントする = 自由にする」インターネットの思想に近いと思うからです。アグリゲーターは非常に強力ですが、長期的に見ればサードパーティ・カスタマーを悲しませている、不自由にさせている事例が多いと個人的に思います。

アグリゲーターの存在は、メディア業界においても度々話題になることだと思っています。その一つが「外部配信」です。

Web メディアの多くは、Yahoo! ニュース、LINE ニュース、SmartNews、Gunosy などのアグリゲーターに記事を外部配信しています。そこに多くトラフィックが集まっているからです。Yahoo! や LINE に取り上げてもらえれば、短期的には PV が爆発的に増えるため非常に強力です。しかし、アグリゲーターの特徴は Amazon と同じく、どの商品も同じように見せ、顧客の購買(読)体験をコントロールし、Supply 側に差別化の機会を与えません。この状況が長く続いたことで、読者に「そのメディアらしさ」を伝える機会がグッと減ったのではないでしょうか?アグリゲーターを介して自社ブランドを浸透させることは非常に難しいのです。これではレビューと価格勝負の世界になってしまいます。

かと言って、プラットフォームが完璧であるわけでもありません。プラットフォームのデメリットとして「集客能力の低さ」があります。Shopify や WordPress 自体に集客能力があるわけでもないですし、Stripe を使ったからといってお金が増えるわけでもないです。プラットフォーム上のアカウントに対し、アグリゲーターを利用して集客していく、という使い分けが実は一番いいのかもしれませんね。Shopify とメルマガでコアな顧客を囲いつつ、広い「面」を取るために Amazon や楽天にも出品するというイメージです。

プラットフォームとアグリゲーターのお話、なんとなく伝わったでしょうか。。ktamura さんのブログでも分かりやすい記事があるので、ぜひ日本語記事で深めたい方は読んでみてください。

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揺れ動くメディアのあり方

メディアというとすごく広い意味で使われていますよね。通信機器とかまでもメディアと言われていますし。そのためここは「メディア企業」のメディアを考えたいと思います。

いわゆるマスコミ、新聞社はメディア企業です。では Facebook はメディア企業でしょうか?マーク・ザッカーバーグは、Facebook はメディア企業ではないと主張し続けてきました。

今までのメディア企業は出版社や新聞社であり、プロがコンテンツを制作したり、まとめたり、配信したり、コンテンツに責任を持っています。しかし、インターネットの登場により、非プロの一般ユーザーが自らコンテンツを制作できるようになりました。これにより、ユーザーが作成したコンテンツを集約・管理・配信するプラットフォーム事業者(上記の話だとアグリゲーターも含む)という、新たなメディア企業の形態が生まれました。この新しい形態を従来のメディア企業に無理やり当てはめた時に、プラットフォーム事業者のサービス上で生み出されたコンテンツは、その事業者が責任を持たねばならないということにもなりかねません。その責任から逃れるという意図も込めて、ザッカーバーグ氏はメディア企業ではないと主張し続けたのだと思います。

このいわゆるコンテンツモデレーションの問題は、2ch 創始者のひろゆき氏が管理者責任としての訴訟を多く抱えたことから分かるように、プロバイダ責任法、表現の自由など多くの難しい問題がつきまといます。メディアの定義が常に揺れ動いており、その責任のあり方も世界中で議論されています。

一つ言えることは、メディアとプラットフォームが近づいているということです。誰もがメディアを持てる時代になりつつあり、それはプラットフォームやアグリゲーター上で生まれます。通常、今の時代はフルスクラッチでプログラミングしてメディアを構築することは基本ありません。アグリゲーションサービス(例えば Twitter や note など)で PR して集客しつつニュースレターや EC サイトを運営するなど、複数のサービス・ツールを使い分けながら自身のメディアを構築する時代になったため、コンテンツの責任と流通の責任が様々なサービスに分散することになります。

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変わるプラットフォームの支援体制

問題は、誰もがメディアオーナーになれる時代に適したコンテンツモデレーション体制教育体制が存在しないことです。結局これらが存在しないと、個人のインフルエンス力・権威性だけに依存するか、自分で情報を取捨選択できるようなリテラシーを消費者全体でつけるしかありません。個人発信であれ企業発信であれ、信頼できないメディアに囲まれている状況ほど怖いことはありません。我々が取り組んでいく「個人発信の支援」については下記の公式ニュースレターで記載しました。

私もできるだけ気をつけてこの文章を書いていますが、これでお金を稼いでいるわけではないので、校正やファクトチェックを頼めているわけではありません。信頼できる情報で溢れる時代をつくることにおいて、仕組みもそうなのですが、やはり重要なのはビジネスモデル・お金です。新聞社が軒並み苦しんでいるように見えるのも、ここに対するソリューションを発明できていないからだと思います。発明は本当に難しいことだと思うので、誰も責めることはできないとも思ってます(新聞社さん、我々スタートアップと一緒にビジネスモデル開発頑張りましょう)。

そして、誰もがパーソナルメディアを持てる時代において、米国スタートアップを中心に、プラットフォーム側の支援体制も変わってきています。クリエイターに報酬を渡すためのファンドをプラットフォーム側が用意したり、保険を用意したり。これまでメディア企業や出版社が持っていたアセットが、少しずつですが無視できないほどにテクノロジー業界に渡ってきているように思います。流通、物販、決済、資金提供、ノウハウ提供、法的サポート、etc。プラットフォームは今や、こういったテクノロジー以外のサービスを充実させてきています。今は過渡期で様々な課題も出てきていますが、個人・スモールチームが主役になる時代はもうそこまで来ているのかもしれません。

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さいごに

プラットフォームとアグリゲーター、メディアについて書きながら整理しただけのニュースレターになっちゃいました。もう少し壮大なことを書こうとしましたが、力量不足でした・・・。次回はもっと面白い記事を書けたらなんて思ってます。

ぜひご感想など Tweet 等していただけますと幸いです😌 いつも全て読ませてもらってます!

今年度はよりリスクを取りながら、他の人ができないことをなるべくやっていきたいと考えています(これがまた難しい)。ではまた次回👋

P.S. theLetter で GIF が使えるようになりました(我が家の愛猫)。

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